トップ > メルマガ – バックナンバー > AKB48の国のタレントマネジメント 2013.08.14

AKB48の国のタレントマネジメント
【第10号】「日本企業に相応しいタレントマネジメント」

フォスターリンク株式会社 代表取締役社長 倉島 秀夫

「AKB48の国のタレントマネジメント」と題して、私の経験してきたことを通じてアメリカと日本の違いについて振り返ってきました。
そして、私は現在フォスターリンクで組織や人事の仕事に携わっていますが、アメリカとは風土、文化、価値観、社会制度が異なる日本において、アメリカ企業と同じようなタレントマネジメント(※タレントマネジメントを組織と人材の双方のマネジメントとして広くとらえています)を日本企業が行って果たしてうまくゆくのだろうか、というのがこれまで私が感じ続けてきた疑問でした。

それでは、日本企業の特性に合ったタレントマネジメントとはどのようなものなのか、このあたりで一度まとめてみようと思います。
日本企業に合ったタレントマネジメントについて考える上で、まずはこれまでに書いてきたことも振り返りながら、アメリカ企業と日本企業の違いを3つの点に分けて整理してみました。

1つ目は、「得意とする働き方の違い」です。
アメリカ企業は個人の能力や専門性が重視される“専門家集団”です。個々の能力と専門性を最大限に発揮させる働き方が得意です。
これに対して、日本企業は個人のコミットメントや関係構築力を活かして、“寄ってたかって”仕事をすることが得意な“チームワーク集団”です。

アメリカ企業の経営陣にとって、人材は将棋の駒という感覚です。ゴールを実現し、目的を果たすための「資本(キャピタル)」であり、経営者や人事部の役割は、状況に合わせてどの駒を、どう動かせば敵将を詰むことができるかを判断することです。
ファイナンスの世界にたとえて言うと、駒自体に強弱があり、どの駒をどう動かせば、つまり、どの駒にどのくらいの投資をすれば、どのくらいのリターンがあるかがわかるという点で、感覚的には資本投資(キャピタルインベストメント)に近いような気がします。
アメリカ企業のタレントマネジメントは、ファンドマネジャー(=経営陣)による“人材ポートフォリオマネジメント”とでも言えるかもしれません。

一方日本企業の経営陣にとって、人材は囲碁の碁石です。経営陣にとって人材は、陣地を獲るための「資産(アセット)」もしくは「資源(リソース)」であり、経営者や人事部の役割は碁石をどこに置いて、どの石とどの石をつなげれば最も広く陣地を獲ることができるかを展望することです。碁石自体は強いも弱いもなく、目をつむって触ればどれも同じです。
個々の能力や専門性はそれほど変わらなくても、一人ひとりがつながり、お互いの足りないところをカバーし合いながらチームプレーとなると大きな力を発揮するのが、日本企業が得意とする働き方です。
ファイナンスにたとえてみると、日本企業のタレントマネジメントは、自分の財産をどう運用するのが一番利殖が増えるのかを考える資産運用(アセットマネジメント)の感覚に近いのではないでしょうか?

経営陣の人材に対する考え方が違うことで、人事評価に対する視点も変わってきます。アメリカ企業ではあくまで個人のパフォーマンスに重点が置かれるのに対し、日本企業ではチーム(または会社)のパフォーマンスに対する個人の貢献度合いのようなものが重視される傾向が強いように思います。

2つ目は、「ナレッジ(知)が蓄積される場所の違い」です。
組織における知識創造の研究で有名な野中郁次郎先生もおっしゃっていますが、日本企業では現場で“暗黙知”が生み出され、現場力の強さが企業の競争力の源泉となっています。
暗黙知とは、知恵や工夫、ノウハウ、観念(道徳観・倫理観・価値観)など、言語化、可視化、デジタル化しにくいナレッジ(知)のことです。暗黙知に対して、文章にしたり、システム化したりして、可視化しやすい知識のことを“形式知”と言います。

アメリカ企業では、基本的にはマネジメントを中心とするマネジャー層が戦略を考え、何をすべきかを決定します。マネジャー層はたいていがMBA(経営学修士)を持っていて、経営に関するナレッジ(知)を保有しています。
一方アメリカ企業における現場(一般社員層)は、あくまでマネジャー層が考えた戦略を推進する実行部隊という役割です。この実行部隊がアドミニ的な業務が苦手で、きちんと業務遂行できなかったりします。ですので、アメリカ企業の現場では、すぐにさまざまな業務をマニュアル化したり、システム化しようという話になります。
アメリカ企業はこうして現場のナレッジ(知)やノウハウを形式知化(言語化、デジタル化)することは得意ですが、一方でいったん決まったやり方で業務が進みだすと、柔軟に対応したり、変更したりということがやりにくかったりします。

これに対して日本企業では、現場で生み出される暗黙知が強みだとされてきました。
例えばトヨタ自動車の現場における改善活動(KAIZENと英語にもなってます)などは、生産現場における暗黙知の積み重ねです。
人間と人間の関係性から生まれる情報も多くは暗黙知ですので、なかなかデジタル化するのは難しいのかもしれません。例えば、どの人と一緒に働くと働きやすいのかといった人と人との相性や、ある人の現場における評判といった人間関係に関する情報も形式知化しにくいものですが、日本企業では大切な情報だと考えられているのではないでしょうか。
そして日本企業の現場は決まったことをきちんとやるのが得意なので、アドミニ的な業務もスムーズにできてしまいます。ですので、マニュアル化しよう、システム化しよう、つまり形式知化しようという声も上がりにくいのかもしれません。

こうした違いがあるので、アメリカ企業では目に見える(形式知化された)成果は重視されますが、現場におけるナレッジ(知)やノウハウの蓄積といった暗黙知にはあまり関心が持たれません。
これに対して日本企業では、現場の社員がどのような工夫をしているのか、誰がどのようなスキルやノウハウを持っているのか、つまり現場における暗黙知情報を注意深く見てゆくことが大切ではないかと思います。

最後の3つ目は、「仕事や組織に対する価値観の違い」です。
アメリカ企業で働く人は、マネジャーも一般社員もひたすら目に見える結果を出すことに追われています。働いている期間、労働時間中はがむしゃらに仕事をして、パフォーマンスを最大化することに努めます。
アメリカでは成果主義は“Pay for Performance”と言われる通り、アメリカ企業で働く人にとって、仕事の報酬とは自分のパフォーマンス(=成果)に対する対価であり、組織とはより大きなパフォーマンスを発揮する場であるという考え方です。

一方日本企業で働く人は、長期にわたる安定雇用を期待しています。日本企業で働く人にとって、報酬とは仕事や組織に対するコミットメントやロイヤリティに対する対価であり、組織とは自分の雇用に対する安心感を与えてくれたり、社会的信用を保証してくれたり、自分の成長を助けてくれたりする場であるという考えの人が多いのではないでしょうか。

働く人の仕事や組織に対する価値観の違いが、結果的にアメリカ企業と日本企業で人材の分布状況の違いを生み出したのではないかと思います。つまり、よく言われることですが、アメリカ企業は人材レベルの二極化が進んでいるのに対して、日本企業は人材レベルが均質化している、ということです。

アメリカ企業で“できる人”は、ものすごく優秀です。頭は切れるし、弁も立ち、体力もあり、エネルギーに満ち溢れています。
アメリカ企業では管理職と非管理職の間に明確な一線が引かれていて、非管理職の一般社員は大きな責任や成果を問われる訳ではありませんが、その分給与水準では管理職とはものすごく大きな差が付けられます。
こうして二極化が進んだアメリカ企業では、選ばれた社員、特にマネジャー層以上は猛烈に働き、それに応じた報酬を受け取る一方で、選ばれなかった人は切り捨てられるという厳しい環境です。こうした企業風土の中では、頼りになるのは自分自身だけ、ということになるのかもしれません。

一方、日本企業にも“できる人”はいますが、全体的に人材レベルが均質化しており、多くの社員が平均的なレベルのところに固まっているという印象があります。日本企業が得意とする“寄ってたかって”という働き方が成り立つ理由の一つは、一人ひとりの人材が一定レベルでそろっているからではないかと思います。
最近、トヨタ自動車の豊田社長の年収が1億8千万円であるのに対して、日産自動車のゴーン社長の年収が9億8千万円というニュース記事がありました。どちらもすごい数字ではありますが、同じグローバル規模の自動車メーカーのトップの年収にこれだけの差がある訳です。
日本企業でもマネジャー(管理職)と一般社員(非管理職)との区分けはありますが、仕事の内容や給与水準がアメリカ企業ほど明確に分けられ、差が付けられている訳ではありません。
タレントマネジメントの対象を考えるときにも、アメリカ企業では二極化した上の方の層を対象として考えているのに対して、日本企業は均質化した全体を対象に考えなければなりません。

最後にもう一つ、将来に向けて日本企業が必ず直面する現象があります。現在既に直面している企業もありますが、それは「社員の高齢化」という現象です。高齢化した社員をどう処遇するか、これは近い将来すべての日本企業が直面する大きなテーマだと思います。
人口ピラミッド的にはアメリカも日本も似ているので、社員の高齢化というのはアメリカ企業にも当てはまるテーマですが、アメリカは若年労働者の不足を補うために、国外からの移民を受け容れる土壌があります。ですので、社員の高齢化というのは、移民政策がいまだはっきりとしない日本、さらに雇用を大事にする日本企業ならではのテーマと言えるでしょう。

以上の3つの日米企業の違い+社員の高齢化問題を踏まえた上で、日本企業に合ったタレントマネジメントについて、大切にしたら良いと思われるポイントを以下にまとめてみました。

① 事業の継続と健全な成長のバランスを重視し、長期間にわたる雇用を前提とした、選抜制では
  なく全体の底上げを狙った全社レベルの能力開発、人材育成の仕組みを作る。
② 社員のキャリア開発を念頭に置いて、人材配置や異動(ジョブローテーション)を体系的に行
  う仕組みを作る。その際に当人の希望をなるべく受け容れる自己申告制度等も有効である。ま
  た、高齢化する社員のキャリアをうまく活かせる事業や職務を念頭に置いた経営戦略を考え
  る。
③ 誰が、どんな仕事をやってきたか、職務履歴やスキル向上履歴(スキルマップ)をデータベー
  ス化し、現場と共有する。
④ 現場における暗黙知情報(アイデア、知恵、工夫、スキル、ノウハウ・・・)を収集し、結集
  し、形式知化して共有できる仕組みを構築する。
⑤ 日本型チームワークを推進するような、お互いがお互いを評価する多面的な評価制度を導入す
  る。さらに一度の評価結果ではなく、一定期間(3~5年のスパン)に集めたその人の現場に
  おける評判を評価する仕組みを構築する。

さて、「AKB48の国のタレントマネジント」と題してこれまで思うところを書いてきました。
日本企業の人材は、パッと見ただけでは誰が誰だかわからないけれども、よく見ると各々が特有の潜在能力を秘めており、いろいろなことをやらせてみることで個々人の得手・不得手が見えてきます。
そして一人ひとりはものすごい才能の持ち主でなくても、チームとして活動すれば大きな成果を出すこともできます。メンバーの組織に対するロイヤリティは高く、どんな仕事に対しても強いコミットメントがあり、真面目に一生懸命取り組もうとします。

こうした日本企業の組織と人材の特性について考えてみたときに、私は共通する特性を持った存在としてAKB48を思い浮かべました。
ただし従来の日本的経営とは違って、AKB48は年功序列ではありませんし、終身雇用でもありません。
AKB48の組織マネジメントと人材マネジメントの考え方や手法に、これからの日本企業に相応しいタレントマネジメントのヒントがあるような気がしています。
日本企業の経営者や人事担当者は、AKB48のプロデューサー、秋元康さんになったつもりで、自社のタレントマネジメントについて考えてみてはいかがでしょうか?

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