「働き方改革実行計画」において、副業・兼業の普 及を図るという方向性が示されて以降、「副業・兼業は解禁の流れ」という空気感が強まっています。
厚生労働省の副業・兼業の促進に関するガイドラインにおいても、促進に取り組むための考え方や手順が示されています。
とはいえ、人事労務管理の側面や、競業避止などリスク管理の観点からみると、従業員の副業・兼業をどう扱うかは、かなり悩ましい問題と言えるでしょう。
この記事では、副業・兼業に関する、就業規則上の考え方などについて解説します。
1. 副業・兼業に関する企業の取り組み状況
一般社団法人日本経済団体連合会の2022年の調査によると、回答企業の70.5%が、自社の社員が社外で副業・兼業することを「認めている」(53.1%)または「認める予定」(17.5%)と答えています。このように、2018年の働き方改革以降、副業・兼業に対して企業は姿勢を変えつつあります。

2. 副業・兼業に関する条文は必要か
現在、就業規則で副業・兼業の禁止を謳っている企業もあるかもしれません。
厚生労働省が提示する「モデル就業規則」においても、かつては副業禁止の条文がありました。しかし、2018年の働き方改革の提言により、副業・兼業の促進に舵が切られ、モデル就業規則からも副業禁止の条文が削除され、新たに副業・兼業の条文が追加されています。
「副業・兼業は、基本的には従業員の就業時間外に行われるものであるため、会社として関与しない、従って、就業規則にも何ら定めない」という考え方も理論上は可能です。
しかし、実務上はそう割り切れないケースも少なくありません。
また、従業員が副業・兼業することによって企業秘密が漏えいする可能性や、会社の名誉や信用を損なう、信頼関係を破壊する行為がある、企業の利益を害する可能性があります。
そのような、いわゆる競業避止の観点からみた副業・兼業禁止の規定を設けていなかった場合、もしも従業員が副業したことによって何らかの損害や問題が発生した場合にも、懲戒処分などの措置をとることができなくなります。
そういった意味でも、就業規則に条文を作成しておくとよいでしょう。
3. 副業・兼業を禁止できる条件
前述のように、従業員が副業・兼業することで、場合によっては企業秘密が漏えいする可能性や、会社の名誉や信用を損なう、信頼関係を破壊する行為がある、企業の利益を害する可能性があります。企業としては当然、一定のルールを設けて運用したいでしょう。
厚生労働省の「モデル就業規則」においても、次に該当する場合は禁止または制限できる、という建付けになっています。
労務提供上の支障がある場合
企業秘密が漏洩する場合
会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
競業により、企業の利益を害する場合
4. 届け出制か許可制か
4-1. 副業・兼業を認める場合の「許可制」と「届出制」の違い
副業・兼業を認める場合の「許可制」と「届出制」の違いは何でしょうか。
許可制とは、従業員から副業・兼業の申請を受けても、企業がそれを許可しない限り従業員は副業・兼業ができない形のことを言います。それに対して届出制は、従業員は企業に届出を出すことにより、副業・兼業を行うことが可能となる形のことです。
厚生労働省のガイドラインにおいても、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的 には労働者の自由であるとされており、裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向で検討、すなわち「届け出制」を推奨している内容になっています。
一方、それらはあくまでも指針やモデルであり、義務ではないため、前章で解説した労務提供上の支障、企業秘密の漏洩などのリスク管理の観点から、「許可制」にして審査を行うという方法も取れます。
また、職種(例:運転・安全・機密)や等級(管理職等)により、審査を厚くする設計なども考えられます。
厚生労働省の「副業・兼業に取り組む企業の事例について」に掲載されている事例では、許可制にしている企業もあるので、検討の際の参考にしてみるのもよいでしょう。
ただし、相談・自己申告しやすい環境づくりが重要で、申告したことを理由に不利益取り扱いはしてはならず、その点は注意が必要です。
4-2. 具体的な条文例
届け出制
|
第xx条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 |
許可制
| 第xx条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行い、その許可を得なければならない。 3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社 は、これを禁止又は制限することができる。 ① 労務提供上の支障がある場合 ② 企業秘密が漏洩する場合 ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合 ④ 競業により、企業の利益を害する場合 |
自社の状況に合わせて、どちらの方法を取るか検討しましょう。
5. 判例にみる副業・兼業の考え方
ここからは、実務で“線引き”に悩む場面の参考として、ガイドラインに掲載の裁判例を、論点別に要約します。
5-1.具体的な判例
原則自由を明言:マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)
労働者は勤務時間外を自由に利用でき、兼業のために利用することも原則許される一方、労務提供不能・不完全、企業秘密漏洩などが生じる場合に限り例外的に禁止が許される、という枠組みを示しました。
「無許可=直ちに懲戒解雇」ではない:東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)
形式的に許可制違反でも、職場秩序に影響せず本業に格別の支障がない程度・態様なら、実質的に規定違反に当たらないと解し、懲戒解雇を無効としました。

軽微な副業で解雇は重い:十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)
年1〜2回程度のアルバイトで、本業への具体的支障がなく、黙認の認識もあった事情等から、職務専念義務違反・信頼関係破壊とまではいえず解雇無効とされました。

指導注意なしの解雇は解雇権の濫用:都タクシー事件(広島地決昭和59年12月18日)
タクシー乗務は乗務前休養が要請される等の事情から、アルバイトが兼業禁止に該当するとしつつも、実際の支障や社内運用(黙認・指導注意なし)等を総合し、直ちに解雇は過酷で解雇権濫用とされました。

深夜・高負荷は“支障の蓋然性”が高い:小川建設事件(東京地決昭和57年11月19日)
深夜に及ぶ毎日6時間の無断就労は、余暇アルバイトの域を超え、会社への誠実な労務提供に支障を来す蓋然性が高いとして解雇有効とされました。

情報漏洩は懲戒解雇:古河鉱業事件(東京高判昭和55年2月18日)
信義則上の秘密保持義務を認め、機密計画案の複製・配布等を理由とする懲戒解雇を有効と判断しました。

競業は“地位・態様”で結論が分かれる:協立物産事件/橋元運輸事件など
管理職が競業他社の取締役就任で企業秩序を乱すおそれが大きいとして解雇有効とされた例(橋元運輸)や、在職中の競業会社設立や顧客との共謀等が競業避止義務違反とされ損害賠償が認められた例(協立物産)やが紹介されています。

競業関係の近さと“情報提供”が背信性を強める:東京現代事件(東京地判平成31年3月8日)
競業関係の評価や、他社に被告情報を提供した背信性、労務提供の支障等を踏まえ、解雇有効とされた例として掲載されています。

5-2. 判例から導ける“実務の結論”
以上の判例から、企業側が勝てるのは
①支障(健康・業務)
②秘密
③競業
④信用毀損
のいずれかが、事実で説明できるとき 、と言えそうです。
「無許可だったから」だけで重い処分にすると、権利濫用と判断されるリスクが上がります。
一方、業務特性(運転・安全)や職位(管理職・機密)で、制限の合理性は厚くなり得ると言えるでしょう。
6. まとめ
副業・兼業は今後、原則として認める方向に進むと考えられますが、これまで述べた通り、すべてを無条件に容認する必要はありません。従業員から希望があった場合には、労務提供への影響や企業秘密の管理、長時間労働につながる可能性などを確認するため、事前に申請・届出等で内容を報告してもらって適切に判断することが重要です。
認める場合も、就業時間の把握・健康管理の対応に加え、職務専念や秘密保持、競業に関するルールをどのように担保するかを整理しておくことが望ましいでしょう。
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