資源が限られる中堅・中小企業、複雑化する法改正対応、多様化する人材ニーズ——。
昨今、多くの企業が「人事業務を外部に任せる」アウトソーシングの活用を本格的に検討し始めています。
従来は、給与計算や社会保険手続きなど、定型的・ルーチンな業務を「効率化」の観点から外注することが一般的でした。しかし現在は、戦略人事の実現や人材競争力の強化といった、より本質的な経営課題への対応手段として、人事アウトソーシングが注目されています。
本記事では、人事アウトソーシングの本質的なメリットに焦点を当てながら、「本当に有効なアウトソーサーの使い方」について、実践的な視点から解説していきます。
執筆者プロフィール
倉島 秀夫 (くらしま ひでお)
1990年一橋大学経済学部卒業後、日本合同ファイナンス㈱(現ジャフコグループ㈱)入社
日本とアメリカでベンチャー投資業務に従事
1995年サンフランシスコにてPREMIO Inc. 設立(カリフォルニア法人)、取締役(現地経営責任者)に就任
PREMIO Inc.では日本人駐在員向けドル建てクレジットカードの発行とカード会員向けアメリカ生活総合支援サービスを提供
2000年に日本帰国、フォスターリンク㈱設立 代表取締役就任
フォスターリンクでは顧客企業の人事戦略立案から人事制度構築・運用まで幅広く支援している
1.高まる人事アウトソーシング需要 その全体像を整理
人事アウトソーシングとは、企業の人事機能の一部または全部を外部の専門業者に委託することです。
株式会社矢野経済研究所の研究によると、2023年度の人事・総務関連業務アウトソーシング市場規模は、事業者売上高ベースで前年度比5.9%増の11兆6,631億円であり、今後も拡大が見込まれています。
引用:矢野経済研究所 人事・総務関連業務アウトソーシング市場に関する調査
人事アウトソーシングの範囲は、具体的には以下のような領域に分かれます。
分類 |
具体的な業務内容 |
オペレーション型 |
給与計算、勤怠管理、年末調整、社会保険手続きなど |
コンサルティング型 |
人事制度設計、評価制度見直し、組織開発支援 |
採用支援型 |
新卒・中途採用代行、面接代行、ダイレクトリクルーティング |
教育・育成支援 |
研修企画・実施、管理職育成、リスキリングプログラム構築 |
特に近年では、BPO(Business Process Outsourcing)から、オペレーショナルな業務だけでなく、戦略人事にまで踏み込むHRO(Human Resource Outsourcing)への進化が進み、採用や育成、制度設計など人事全般を支援するサービスも増えてきました。
2.人事アウトソーシングの「メリット」とは何か?
なぜ多くの企業が人事アウトソーシングを活用するのでしょうか?
代表的なメリットは以下の5点です。
① コア業務への集中
ルーチン業務を外部に任せることで、自社内のリソースを「人材育成」「組織開発」「タレントマネジメント」など戦略的業務に集中できるようになります。
② 法改正や制度変更への対応力向上
近年の人事労務に係る法令対応はますます多岐にわたります。労働基準法、育児・介護休業法、高齢者雇用安定法、雇用保険法、子ども子育て支援法など、対応が煩雑な上、対応漏れも許されるものではありません。専門知識を持つアウトソーサーに任せることで、リスクを最小化できます。
③ コストの可視化と変動費化
内製だと見えにくい人件費や教育コストも、アウトソースなら契約ベースで明確に管理できます。業務量に応じた変動費化も可能で、経営の柔軟性が向上します。
④ 外部ノウハウの活用
専門知識だけでなく、他社事例や最新トレンドに精通した専門家が支援するため、社内にない視点やベストプラクティスを導入しやすくなります。
⑤ 採用難への代替手段
人事部門そのものの人材確保が難しい企業では、アウトソースが機能維持のための“即効性のあるHRソリューション ”となります。
3.人事アウトソーサーを有効活用するための3つの視点
人事アウトソースは「任せれば終わり」ではありません。
以下の3つの視点で、“戦略的パートナー”として活用することが成功の鍵です。
① 「人事アウソーシングを利用する目的」を明確にする
目的によって選ぶべき業者、契約範囲、期待する成果は大きく異なります。
目的の例:
• 業務負担軽減
• 専門性の確保
• 人事戦略の高度化
具体的な目的と施策例:
• 「採用活動の精度を上げたい」 → 採用ブランディングを含むパートナー選定
• 「給与業務を安定させたい」 → 給与特化型のBPO企業
② 「役割分担と責任範囲」を明確にする
どこまでを外注し、どこからを自社で担当するのかを、業務フロー・RACIチャートで可視化すると混乱が防げます。
RACIチャートとは、タスクや成果物に対する、各メンバーの役割と責任範囲を明確にするためのものです。
|
R |
A |
C |
I (Informed) 報告対象 |
給与計算 | アウトソーサー | 人事部長 | 社労士 | 経理部長 |
このように整理することで、アウトソーサーと自社との役割分担が明確になり、トラブル発生時の対応もスムーズになります。
③ 「定期的なレビューと改善」を設ける
委託後も、業務の品質やKPIを定期的にレビューし、改善サイクルを回すことが重要です。
• SLA(サービスレベル合意)の設定
• 四半期ごとの進捗レビュー
• アンケートやCS(顧客満足度)スコアの取得
これにより、形式的な委託ではなく、共に成長する関係を築くことができます。
4.活用事例
実際に人事アウトソーシングを活用している事例を、導入前の課題、具体的な施策、導入効果、の観点から整理します
事例1:中堅IT企業(従業員数300名)
課題:社労士や専門知識を持つ従業員がおらず、法改正対応に時間を取られ、また、リスクや不安を抱えていた
施策:就業規則管理と労務相談をアウトソース
効果:内部対応にかかっていた時間を80%削減し、人的ミスもゼロに近づいた
事例2:急成長ベンチャー(従業員数80名)
課題:人事部が2名しかおらず、事業拡大に対して採用業務が追い付いていなかった
施策:採用計画の策定と候補者対応を完全委託
効果:面接業務のみに集中でき、内定承諾率も40%→70%に改善した
事例3:老舗製造業(従業員数1,000名)
課題: 管理職の育成に手が回っていなかった
施策: 年間のマネジメント研修プログラムを外部に委託
効果: 昇進後3年以内の離職率が18%から5%に低下した
このように、課題を明確にして、それを解決するためのアウトソーシング施策を選ぶことが、アウトソーシングの効果を出すために重要です。
5. アウトソーシング導入時の注意点
コミュニケーションロスに注意
特に間接部門(人事・総務・経理など)の業務には、マニュアル化されていない「暗黙知」が多く含まれています。
こうした知識は、言葉にしづらく、外部に伝えるのが難しいため、アウトソース先との初期の要件定義や情報共有には十分な時間と労力をかけることが重要です。業務の背景や判断基準なども含めて丁寧に説明し、相互理解を深めることで、後々のトラブルを防ぐことができます。
情報セキュリティの徹底
アウトソーシングでは、マイナンバーや給与情報など、個人情報や機密情報を扱うケースが少なくありません。そのため、情報セキュリティ対策は最優先事項です。プライバシーマーク(Pマーク)やISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を取得している業者を選定することはもちろん、秘密保持契約(NDA)の締結や、アクセス権限の管理なども含めた体制整備が求められます。
「丸投げ」しない意識
アウトソーシングの失敗例として最も多いのが、「業務をすべて任せきりにしてしまい、現場の状況や問題が見えなくなる」というケースです。外部委託とはいえ、業務の責任は自社にあります。担当者が窓口としてしっかりと連携を取り、業務の進捗や課題を把握できる体制を整えることが不可欠です。定期的なミーティングや報告の仕組みを設けることで、品質の維持と改善につながります
6. これからの「人事」は自社×外部のハイブリッドで考える
人事機能は、かつては“社内で完結するもの”とされてきました。しかし、今や人事は「経営戦略の実行装置」であり、その機能強化には外部知見の活用が欠かせません。
特に中堅・中小企業にとっては、
• 経営に直結する意思決定や制度設計は、専門家の支援を受けながら「内製」
• 実行オペレーションや専門性が必要な領域は「外注」
というハイブリッド型の体制こそが、最も現実的かつ効果的な選択肢です。
おわりに:人事部の「変革」はアウトソーシングから始まる
人事アウトソーシングは、単なる業務代行ではなく、「経営を支える人と組織づくり」をサポートする“戦略パートナー”です。
そのためには、目的を明確にし、役割を共有し、継続的に対話を重ねることが不可欠です。うまく活用すれば、採用力・育成力・組織力——すべての面で貴社の競争力は一段高まるはずです。
変革は、人事部から。そして、人事部の変革は、アウトソーシングから始まるのです。
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