毎年6月から7月にかけて、多くの企業が対応に追われる「算定基礎届」。社会保険の手続きの中でも特に重要なこの業務ですが、「そもそも何をどうすればいいの?」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。この記事では、算定基礎届の基本的な流れや注意点を、初心者の方にもわかりやすく解説します。
1.算定基礎届とは?その目的と重要性
1.1 算定基礎届とは何か?
「算定基礎届(さんていきそとどけ)」とは、正式には「被保険者報酬月額算定基礎届」と呼ばれ、健康保険・厚生年金保険の保険料を決定するための重要な書類です。毎年7月に事業主が日本年金機構へ提出するもので、従業員の4月〜6月の報酬をもとに「標準報酬月額」を決定します。
この標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの社会保険料の計算基礎となるため、正確な記載が求められます。
【参考】日本年金機構の公式ページ
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.html
1.2 なぜ必要?算定基礎届の役割
社会保険料は、従業員の報酬に応じて決まりますが、毎月の給与は変動することもあります。そこで、年1回の「定時決定」によって、一定期間の報酬を平均し、安定的な保険料を算出する仕組みが設けられています。
これにより、事業主・従業員ともに保険料の見通しが立てやすくなり、社会保険制度の公平性も保たれます。
1.3 提出対象者と対象外のケース
基本的には、7月1日時点で在籍しているすべての被保険者が対象です。ただし、以下のようなケースは対象外となります。
- 6月1日以降に入社した者
- 6月30日以前に退職した者
- 7月改定の月額変更届(随時改定)の提出をする者
- 8月または9月に月額変更届(随時改定)が予定されている旨の申出を行った者(※)
これらの例外に該当する従業員については、別途手続きが必要です。
※算定基礎届提出後に、月額変更届を提出することも可能です。(月額変更届の内容が優先して反映されます。)
2. 実務で押さえるべき算定基礎届の作成手順
2.1 提出スケジュールと流れ
算定基礎届の提出は、毎年7月10日が締切です。6月中旬には日本年金機構から届出用紙が送付されるため、早めに準備を始めましょう。
提出方法は以下の3つから選べます。
- 紙での郵送または窓口提出
- e-Govを利用した電子申請
- 社労士ソフトを使った電子媒体申請
※二以上の事業所に勤務する方の届出
二以上の事業所に勤務する方の算定基礎届は、選択事業所を管轄する事務センターから各事 業所に送付します。送付された算定基礎届は、選択事業所を管轄する事務センターに提出い ただくことになりますのでご注意ください。
2.2 記入の基本:報酬の集計方法
対象期間は4月・5月・6月の3か月間。この期間の報酬を合計し、3で割った平均額を算出します。
一般的な被保険者
各月の支払基礎日数が17日以上である必要があります。17日未満の月がある場合、その月は除外して平均を出します。
4 月・5 月・6 月の支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
3か月とも17日以上ある場合 |
3か月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1か月または2か月が17 日以上で、他は17日未満の場合 |
17日以上の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3か月とも17日未満の場合 |
従前の標準報酬月額で決定 |
短時間就労者
短時間就労者とは、正規社員より短時間の労働条件で勤務する方をいいます。
4 月・5 月・6 月の支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
3か月とも17日以上ある場合 |
3か月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1か月または2か月が17日以上で、他は17日未満の場合 |
17日以上の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3か月とも15日以上17日未満の場合 |
3か月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1か月または2か月が15日以上17日未満で、他は15日未満の場合 |
15日以上17日未満の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3か月とも15日未満の場合 |
従前の標準報酬月額で決定 |
短時間労働者
短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満、1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満、またはその両方の場合で、次の要件をすべて満たす方が該当となります。
①週の所定労働時間が20時間以上あること
②雇用期間が継続して2か月を超えて見込まれること
③賃金の月額が 88,000円以上であること
④学生でないこと
⑤特定適用事業所または国•地方公共団体に属する事業所に勤めていること
4 月・5 月・6 月の支払基礎日数 | 標準報酬月額の決定方法 |
3か月とも11日以上ある場合 |
3か月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
1か月または2か月が11日以上で、他は11日未満の場合 |
11日以上の月の報酬月額の平均額をもとに決定 |
3か月とも11日未満の場合 |
従前の標準報酬月額で決定 |
2.3 報酬に含めるもの・含めないもの
含める報酬(例):
- 基本給
- 各種手当(通勤手当、住宅手当など)
- 残業代、休日出勤手当
- 年4回以上の賞与
含めない報酬(例):
- 出張旅費、交際費
- 結婚祝金、弔慰金
- 退職金
2.4 書き方の注意点とよくあるミス
1.支払基礎日数の誤記
「支払基礎日数」とは、給与計算の基礎となる日数を指します。これは単なる所定労働日数ではなく、給与が支払われる対象となった日数を記載する必要があります。
(例:日給月給制の社員で欠勤控除や日割りが発生している場合)
2. 現物支給の記載漏れ
給与の一部が「現物」で支給されている場合(例:社宅の提供、食事の支給、通勤定期券の現物支給など)、その金銭換算額も報酬に含めて記載する必要があります。
これを記載し忘れると、実際の報酬額よりも低く算定されてしまい、保険料が過少に計算されるリスクがあります。現物支給の有無は、就業規則や給与明細を確認し、正確に反映させましょう。
【参考】現物支給:
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150511.html
3. 平均額の計算ミス
4月〜6月の報酬を合計し、対象月数で割って平均額を算出しますが、以下のような点でミスが起こりやすいです:
• 端数処理:1円未満の端数は切り捨てるのが原則です(小数点以下は記載しない)。
• 除外月の扱い:支払基礎日数が基準(17日または11日)に満たない月は、平均計算から除外する必要があります。
• 賞与との混同:賞与は年3回以下の場合には算定基礎届には含めず、別途「賞与支払届」を提出します。
これらのミスは、標準報酬月額の誤決定につながり、後の訂正や従業員とのトラブルの原因にもなりかねません。ルールを正しく理解し、計算や確認を実施しましょう。
2.5 その他
健康保険組合:
各組合の提出ルール等をご確認ください。
年間報酬の平均で算定:
https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/tekiyo/hoshu/20141002.html
3. 実務担当者が知っておくべきポイントとFAQ
3.1 月額変更届との違い
「算定基礎届」は年1回の定時決定ですが、随時改定の条件に該当した場合には、「月額変更届」を提出します。
【参考】随時改定
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html?referral=yh_freee_payroll
3.2 電子申請のメリットと注意点
電子申請を活用すれば、提出の手間が軽減され、処理も迅速になります。e-Govや社労士向けソフトを使えば、複数人分のデータを一括で送信可能です。
ただし、添付書類の形式やファイル名のルールなど、細かい要件があるため、事前に確認しておきましょう。
【参考】電子申請・電子媒体申請について
https://www.nenkin.go.jp/denshibenri/index.html
3.3 提出後の流れと従業員への通知義務
提出後、日本年金機構から「標準報酬月額決定通知書」が届きます。これは従業員にも通知する義務があります。
通知を怠ると、従業員が保険料の変動に気づかず、トラブルの原因になることも。社内での共有体制を整えておきましょう。
3.4 よくある質問(FAQ)
Q. パート・アルバイトも対象ですか?
A. 社会保険の適用対象であれば、パート・アルバイトも算定基礎届の対象です。2024年10月からは、従業員51人以上の企業で週20時間以上働くパートも加入対象となっています。
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/koujirei/jigyonushi/taisho/
Q. 途中入社や休職中の人は?
A. 6月1日以降に入社した人は対象外。休職中で該当月に報酬がない場合も、提出の対象にはなりますのでご注意ください。
Q. 提出を忘れたらどうなる?
A. 提出が遅れると、保険料の決定が遅れ、従業員の不利益につながる可能性があります。悪質な場合は行政指導の対象になることもあるため、必ず期限内に提出しましょう。
Q. 算定基礎届の提出を忘れた場合、どうなりますか?
A. 提出が遅れると、保険料の決定が遅れ、従業員の不利益につながる可能性があります。悪質な場合は行政指導の対象になることもあるため、必ず期限内に提出しましょう。
Q. 電子申請と紙申請のどちらが良いですか?
A. 電子申請は提出の手間が軽減され、処理も迅速になります。e-Govや社労士向けソフトを使えば、複数人分のデータを一括で送信可能です。ただし、添付書類の形式やファイル名のルールなど、細かい要件があるため、事前に確認しておきましょう。
Q. 提出後に誤りに気づいた場合、どうすれば良いですか?
A. 提出後に誤りに気づいた場合は、速やかに日本年金機構に連絡し、訂正手続きを行ってください。訂正が遅れると、保険料の計算に影響が出る可能性があります。
算定基礎届は、年に一度の手続きではありますが、社会保険料の正確な算出に直結する非常に重要な業務です。
本記事を参考に、基本をしっかり押さえ、ミスのない提出を目指しましょう。
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